2008年04月26日

 Giving Away My Secrets To ... #10

 「今度の試合は、韓国で、なのね」

 作り笑いをしながら精一杯伝えた。まだ言いたいことはたくさんある。でもそれらの言葉は
悲しくなるから言えない。

 「韓国の住所を、教えてくれる?」

 言葉を足すと、彼は頷いた。
 
 「明日、もう一度ここで会おう。そのときに住所を渡すから」
 「・・・了解、ありがとう」
 
 "Yuki, take it easy!"
 ギルは別れ際、いつもと同じ言葉を口にしていた。

 インドアの練習を見に行くとMasaが目で合図をした。学校内のランニング練習の途中休憩で
近付いて話しかけた。ルールを破って日本語を使った。

 「知ってた?ギルのこと」
 「うん」
 「韓国に戻ること、知ってたの?」
 「ああ、そっちの意味でか。一昨日聞いたばかりだよ。ゆきと知り合いだっていうのもそのとき
  知った。ギルってつい最近、戻ってきたばかりだよね、ゆきはどうしてギルを知ってるの?」
 「Nくんと彼が知り合いだったの、5年前、親友だったみたい」
 「なるほどね、そういうことか・・・練習終わってから話そう。少し落ち着いたほうがいい」

 話しの途中に休憩終わりの合図がかかっていて、ちょうどきりがよく彼は話しを止めた。
 ギルから聞いたばかりで、いつもになく動揺して話す私をMasaは察していた。

 
 練習終了後、カフェテリアでMasaを待っていると様々なことが思い出された。
 そういえば、ここでギルと初めて会ったっけ。ピザを注文してくれたっけ。
 
 涙ぐみそうになるのを必死でこらえていたとき、待ち人が来た。

 「ごめんね、さっき日本語使って」
 「ん。今は自分も日本語使う」
 「うん・・・」
 「ゆきさ、英語、自信持って話した方がいいよ。大きな声で、はっきりと。恥ずかしがる
  のは損だよ。それから、話さなくちゃ、相手には伝わらない」

 Nくんが言っていたことと似ている、そう思いながら聞いていた。

 「ここにいることができる時間は限られたものだってわかってるよね?
  自分の留学期間は残り4ヶ月をきってる。やれることやって、できる限り楽しい日々を
  送っていかなくちゃって思ってる。どんどん時間が過ぎていくこと、わかっていると思う
  けど、意識したほうがいい」
 「うん・・・」  
 「・・・ギルのことだけど」

 私は頷いた。

 「ブラジルからだっけ?戻ってきたとき、友達が紹介してくれた。ずっと挨拶程度だった
  けど、一昨日ギルから話しかけてきたんだ、韓国に帰るって。そのときにゆきのことを
  話題にしたよ、彼女のこと頼むってね」
 「Nくんが私のことを手紙に書いて送ったから・・・」
 「うん、事情はわかった。心配してるんだろうな、ギル。気持ちはわかるよ、友達から
  頼まれていたんだったらなおさらね。ゆきはときどき、大丈夫かって思うとき、ある
  からなあ」
 「・・・うん?そういう風に見える?」
 「いい意味で一生懸命、悪い意味で無理してる・・・そんな感じかな」

 Masaは、話しの最後に念を押すように言った。
 
 「残りの留学期間、お互い悔いのないように過ごそう」
 「うん・・・ありがと、ほんと、ありがと。助けてもらってばかりだね、Masaに」
 「いや、こっちも助かってるとこ、あるからね」

 意味ありげにMasaは笑った(その真意は4ヵ月後、Masaの口から聞くことになる)。
 Masaと話したことで私は、今抱えている悔いが今後残らないように、きちんとギルと
話しをしようと心に決めることができた。

 
 翌日の放課後、ESLの教室で彼に会った。

 Nくんとの出会い。彼の近況。サッカーのこと。ギルのサッカーを見たかったこと。
 ギルの存在が嬉しかったこと。もっと同じ時間をここで過ごしたかったこと。

 思ってることを全て、泣かないで話した。ギルは微笑んで頷きながら聞いていた。

 「怪我しないでね。韓国で・・・幸運を祈ってる。連絡とりあおうね」
 「できる限り・・・と言いたいけど、筆不精なんだ。Yがよく知ってる。でも手紙書くよ」

 ESLの教室を出て、ちょうど1週間前にギルと話した玄関まで、歩いてきた。
 "Give me a hug"と手を広げた彼に、"Of course"とためらいなく答えた。

 『ブラジル、アメリカ、韓国・・・ギルにとって世界は狭いんだね。私も負けないね』

 心の中で、彼に呟いた。
 ギルとの突然の別れは、この後の私を少しずつ、でも確実に強くしていった。
posted by yuki at 01:37| Memoirs | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。