2008年04月24日

 Giving Away My Secrets To ... #9

 ギルが1週間のほとんどを休んだ翌週は、ランチタイムで毎日彼を見かけた。
 その木曜日、ランチ後の5時限めに向かう出入り口でギルが私の名前を叫んだ。

 「ゆき!話しがあるんだ。放課後、ESLの教室に来れるかい?」

 ESLはEnglish as Second Languageの略で『第2言語としての英語』、つまり
英語を母国語としない生徒たち…移民や私のような留学生が学ぶ英語のことで、私も
Masaも普段の英語の授業とは別にESLも選択していた。ギルは既にESLの必要の
ない生徒だったけれど、その教室にはときどき顔を出していた。

 「了解!」

 多分、サッカーの大会のことだろう。ギルのプレーを見ることができるかな。Nくんに
報告できるなあ。そう考えただけで嬉しくて放課後が待ち通しかった。

 私がESLの教室に近付いたとき、ドアの前ではMasaがギルと立ち話しをしていた。
2人が親しげに話す仲だと知らなかった私は少し驚いたけれど、何となく嬉しかった。
Masaはギルと私がここで会う約束をしていたのを知っていたようで、「インドアの心配
しなくていいぞ。遅れるって伝えておく」と英語で言って去っていった。
 
 私が首を傾げると、ギルは困ったように微笑んで話し始めた。

 「ごめん、ゆき」
 「なにが?」

 嫌な予感がした、鏡を見るような気持ちだった。話したくないことを話すとき、私がする
のと全く同じ表情をギルがしたのだ。

 「明日が最後なんだ、学校に来るの」
 
 意味がわからなかった。言葉を失っている私に彼は話し続けた。

 「学校に来るのは明日が最後になるんだ。韓国に戻ってサッカーをすることに決めた。
  韓国でナショナルチームのセレクションを受けることにしたんだ。アメリカより韓国の
  方がサッカーは強いって知ってるよね。ソウル五輪が終わったこの時期だから・・・」

 ギルは前の年の87年、U17のワールドカップ・アメリカ代表の一員だった。韓国チーム
から将来有望な選手として声がかかってもおかしくない。

 「…先週話したとき、わかっていたのね?何か話そうとして止めたのは、このことだった?」

 日本語からの変換作業抜きで英語を口にしたのは、そのときが初めてだった。
 自分でも驚くほど言葉が勝手にすらすら出てきて、感情が先走っているのがわかった。

 「うん、ゆきは気付いたか」
 「なんで、もっと早く話してくれなかったの?」
 「言えなかったんだ」
 
 ギルは私の言葉を待っていた。空白の・・・とてもとても、長い時間だった。
posted by yuki at 23:11| Memoirs | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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